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ブゾーニの『嫁選び』をわかろう!

 ブゾーニのオペラ『嫁選び』(バレンボイム指揮)のCDが出ました。新譜(しかも国内盤)を発売日に買ってくるなんていうのは私の場合一年に一度あるかないかなんですが,今まで非正規盤一種しかなかったブゾーニのオペラ第1作が,日本語対訳付きで聴けるとなれば見逃せません。

 で,早速聴いてみたんですが,これが実に面白い! めまぐるしい無窮動風の前奏曲からはじまって,ブゾーニのドライでモダンでユーモラスな音楽がとにかく楽しいです。バレンボイムの指揮もやや重いかなと感じるところはありますがやはりいいですし,歌手もトゥースマン役のグレアム・クラークはじめ芸達者が揃っていて高水準です。

  ただ問題もあります。とにかく筋がわかりにくい。いや,大雑把な筋はわかるんですが,細部になると,こいつ誰やねんとか,このセリフどういう意図やねんというのがたくさんあります。これは,E.T.A.ホフマンの複雑な原作や,それを大幅に短縮したブゾーニの台本のせいもあるんですが,全体の3分の1に及ぶというカット,そして不親切な解説と訳の責任が大です。この対訳,セリフそのものはこなれた日本語なのですが,なぜかト書きがほとんどなく,しかも訳が不正確と思われる箇所もあります。はっきり言って予備知識を何も持ってない人がこの対訳を見ながらCDを聴いたとして,ストーリーが理解できるとはとても思えません。

  そこで,それじゃいろいろ調べて一応の話の流れがわかるようにまとめてみようというのが趣旨です。まさか訳を作り直すわけにいかないので,ちょっと詳しめの梗概という形にします。

  で,肝心の資料ですが,一番いいのはオペラのオリジナルの(カットのない)スコアか台本,あるいはE.T.A.ホフマンの原作にあたることですね。ところが私はどれも持ってないので,今はとりあえず Beaumont の本と VOCE 盤の解説を中心に,長木さんの本から補って書くことにします。ホフマンの原作は図書館か本屋で見つけたらその時点で補正します。(99.8.31 邦訳のホフマン全集5-Iを借りてきました! 追々増補&訂正します。)

 バレンボイム盤のカットのうち大きな部分は赤字で示しますが,他にも小さなカットはたくさんあります。

第1幕第1場 第1幕第2場
第2幕第1場 第2幕第2場
第3幕第1場 第3幕第2場
エピローグ


第1幕第1部

第1場

 ベルリン,ティーアガルテンの,カフェのあるテントの中。葉巻をこよなく愛する商社顧問フォスヴィンケルは,ハンブルクからわざわざ取り寄せた葉巻になかなか火がつかないのでいらいらしながら次々投げ捨てる。とうとう最後の一本までなくなってしまってとても不機嫌,悪態をつく。居合わせた若い画家エドムントは,近くで買った葉巻ですが自分のを差し上げましょうかと申し出る。すっかり機嫌を直したフォスヴィンケルは唄を歌い出す。

第2場

 エドムントが気に行ったフォスヴィンケルは,彼を自分のテーブルに招き,娘のアルベルティーネを紹介する。アルベルティーネはある展覧会でエドムントの姿を見ていたので,彼が画家エドムント・レーゼンであることに気付き,彼の作品を称賛する。実はエドムントもその時彼女の姿を見ていた。フォスヴィンケルは上機嫌で,「娘は芸術にとても通じていて,眼があるのです。我々は芸術を愛しています。」と語る。フォスヴィンケルが中座し,若い二人だけになる。次第に日が暮れる頃,二人はフーケの詩を口ずさみつつ互いの心を打ち明け,恋に落ちる。

  フォスヴィンケルが帰ってきて,エドムントに別れを告げようとするが,エドムントがすかさず葉巻を差出し,同行してよろしいかと聞くと,喜んで承知,三人は帰っていく。

注: バレンボイム盤でカットされているフォスヴィンケルのセリフはワルツのリズム。またバレンボイム盤ではフォスヴィンケルがいない間の二重唱は大幅に短縮。。

第3場

 その後ろ姿を見守る男。彼は金細工師レオンハルト,実は何百年も生きている魔術師である。彼はエドムントの才能を見抜き,高邁な使命を帯びた彼が正しい道に導くために見守っているのである。恋に夢中のエドムントにあきれつつも,正しい使命を全うさせるためにかなえてやろうとつぶやく。レオンハルトは,まずトゥスマンを厄介払いすることから始めよう(?)という。

第4場

 市役所のあるシュパンダウ街の古い塔の前。かなりの年でまだ独身の古書マニア,枢密院顧問官のトゥースマンが仕事を終えて家路を急いでいる。彼は毎晩11時には家に帰り着いているのが習慣なのに,今日は遅れてしまったことをぼやいている。塔の前を通りがかったトゥースマンは,一人の男が塔の扉を叩いては窓を見上げているのに気づく。トゥースマンは怪しんで「その塔にはねずみやふくろう以外誰もいませんよ」と声をかける。ところがこの男は実はレオンハルトであった。「トゥースマン君」と見下すように呼びかけるレオンハルトにトゥースマンは憤慨する。トゥースマンはレオンハルトを,「この身分で呼びかけておけばまずはまちがいないから」と「枢密顧問官どの」と呼び, かの女性の正体を尋ねる。 レオンハルトが「いかにも自分は枢密顧問官と言っても間違いではない。」と言うとトゥスマンはとたんに卑屈になる。レオンハルトは「自分がここにいるのは一人の花嫁を見るためだ。今日,秋分の日の夜にこの窓に一人の女性の幻影が現れるが,その女性は次の春分にはベルリンで最も幸せな花嫁になるのだ。」と説明する。やがて幻影があらわれるが,それはなんとアルベルティーネの姿であった。11時の鐘の11番めが鳴り終わると幻影は消える。すっかり動揺し,混乱してしまうトゥースマン。レオンハルトは「では秋分の日の花嫁についてもっと話してやろう。」と,嫌がるトゥースマンを無理やりつれていく。

第1幕第2部

第5場

 薄暗い居酒屋。レオンハルトとトゥースマンが入っていくと,ユダヤ人マナッセが坐っている。実は彼も魔術師で,レオンハルトの宿敵である。レオンハルトは久しぶりの挨拶をし,ワインを注文する。マナッセはあまり愉快そうではない。レオンハルトはトゥースマンに「さっき女性の幻影を見てあんなに動揺したのはなぜなのだ?」と尋ねる。トゥースマンは「実は私は結婚しようと考えておりまして・・・」と説明を始めるが,なぜか古本の話を長々とはじめる。「お前のくだらんおしゃべりのおかげで休息の時がめちゃくちゃだ」といらつくマナッセ。レオンハルトは突然,歴史好きのトゥースマンに,16世紀の貨幣製造業者のユダヤ人リッポルトの話をはじめる。リッポルトは魔術の本を手に入れ,いかさまをやったが,妻の密告でばれて火あぶりになった。実はマナッセこそその火あぶりで死んだはずのリッポルトだったのだ。マナッセは当てこすりに気付き,何度も話を遮ろうとする。

注: バレンボイム盤ではこの場のトゥスマンのセリフに小さなカットが3ヶ所ある('Wovon das Herz ist voll' の前,'in Amors Banden' の後,'Sattsam lehret noch Thomasius' の前)。 プレヴィターリ盤ではリッポルトの物語がそっくりカット。 なお,リッポルトの物語の音楽はピアノ曲『トッカータ』に流用された。

 事情のわからぬトゥースマンは説明の続きをはじめる。「あの女性はアルベルティーネ・フォスヴィンケル嬢で,私は彼女と婚約しているのです。」という。レオンハルトは驚き,「お前のような年とった小役人が彼女と結婚しようとしているのか。」という。気分を害して「あなたは卑劣な手でアルベルティーネを奪おうとしているのではないですか。」というトゥースマンに「お前が相手にしてるのは変わった連中だよ。自分が誰を相手にしているかわかっているのか?」と,レオンハルトは自分の顔をきつねに変える。それを見たマナッセは面白がり,「俺はもっといいことが出来るぞ」という。彼が大根を輪切りにすると,それは次々金貨になる。それを片端から火花にして消してしまうレオンハルト。恐れをなしたトゥースマンは慌てて暇乞いをする。


第2幕第1部

第6場

 フォスヴィンケルの部屋。フォスヴィンケルは壁に掛かった自分の新しい肖像画を見ている。彼は自分を大金持に描いてくれて,しかも礼金を断った画家エドムントを「最初は葉巻,次は肖像画,すばらしい芸術家だ!」と大いに気に入った様子。

第7場

 トゥースマンが真っ青な顔で駆け込んできて,昨夜の不思議な経験,塔の窓に,見知らぬ男とワルツを踊るアルベルティーネを見たことをフォスヴィンケルに話し,自分も踊り出す。踊りはだんだん速くなり,ついには気絶する。ところがフォスヴィンケルは取り合わず,レオンハルトとマナッセが魔術師のはずがない,政府がそんな免許は出さないという。むしろトゥースマンがアルベルティーネとの結婚をやめるために正気でないふりをしているのではないかと疑う。そこへノックの音。

第8場

 入ってきたのはマナッセであった。びっくりして逃げようとするトゥースマンをフォスヴィンケルが引き止める。マナッセは自分のくつろぎの邪魔をしたあげく泥酔して居酒屋を出ていったトゥースマンに文句をいう。そしてフォスヴィンケルに「自分の甥ベニヤミン・ベンシュがベルリンにやってきた。彼こそアルベルティーネの婿にふさわしい。彼はハンサムで若く,昨日から大金持になったオーストリアの男爵で,アルベルティーネに恋している。」と脅迫的にいう。マナッセが出ていくと,フォスヴィンケルはトゥースマンに,やはり許すから娘と結婚してくれという。二人は抱き合う。

第2幕第2部

第9場

 フォスヴィンケル邸の別の部屋。イーゼルにはアルベルティーネの描きかけの肖像画。アルベルティーネがチェンバロの前に座り,自分で伴奏しながらフーケの詩を歌っている。肖像画を描いていたエドムントも一緒に歌い出し,ついには二人は抱き合う。

第10場

 突然トゥースマンが入ってくるが,二人をみて凍り付き,「アルベルティーネ! 昨日はワルツを踊り,今日はこんな振る舞い。これが花嫁のやることですか? 」と大声をあげる。怪訝そうに問い返すアルベルティーネ。実はフォスヴィンケルは娘に無断でトゥースマンとの婚約を決めてしまったので,アルベルティーネは自分の婚約を全く知らなかったのだ。びっくりして激怒するアルベルティーネ。エドムントは怒ってトゥースマンの顔に緑の絵の具を塗りたくり,部屋から追い出してしまう。

第11場

 戸口でトゥースマンはフォスヴィンケルとぶつかり,自分の受けたひどい仕打ちを訴える。フォスヴィンケルはあらためて娘にトゥースマンこそがお前の花婿であると言う。アルベルティーネは「トゥースマンなんかとは絶対結婚しません。」と誓い,エドムントの腕の中に倒れ込む。「離れろ」「離しません」といまにも喧嘩になりそうな二人。

第12場

 そこへレオンハルトが現れ,頭を冷やせと二人を落ち着かせる。一方トゥースマンの緑の顔を見て大笑い,「お前は一生その顔で,結婚もできず,仕事も家も失うだろう,アルベルティーネとの結婚をあきらめるなら別だがね。」と告げる。

第13場

 マナッセとベンシュが入ってくる。ベンシュは偉そうに自己紹介し,アルベルティーネに不作法に求婚,全員あきれる。レオンハルトは怖がるアルベルティーネを慰め,ベンシュにはまあ我慢せよと言い,トゥースマン,ベンシュ,マナッセ,フォスヴィンケルにみんな仲良くしなさいという。彼が三度手を叩くとトゥースマンとベンシュが空中を上へ下へと浮いて踊り出す。マナッセは魔法で縄を作り出し,レオンハルトを捕まえようとする。フォスヴィンケルが縄を取り,三度目の挑戦でベンシュとトゥースマンを捕まえる。ところがその途端,今度はフォスヴィンケルとマナッセが上へ下へと浮いて踊り出す。踊りは突然終わり,フォスヴィンケルとトゥースマンはぐったりと坐り込む。レオンハルトと手を組んだフォスヴィンケルとその一族をマナッセは呪う。気にするなというレオンハルト。

バレンボイム盤では,カットされた第8場のマナッセによるベンシュの紹介(トラック21終わりの 'Herr des Himmels' からトラック22の 'Hier ist er selbst' まで)をベンシュの口上の前に移している。


第3幕第1部

第14場

 月の光の照らす,ベルリン・ティーアガルテンの蛙池。相変わらず緑の顔のトゥースマンが,もうこの池の蛙の群れに飛び込んで死ぬしかないと自分の運命を嘆いている。

第15場

 レオンハルトが現れ,馬鹿な真似はやめろという。しかしトゥースマンは「冷たい死よ!緑の池よ!」と歌う。レオンハルトは取り合わず,そんなことはいいからついて来いと連れていく。「でも顔が・・・」というトゥースマンの顔をレオンハルトがハンカチで拭くと,緑の色は消えてトゥースマンは大喜び。また「これできっとアルベルティーネ嬢も私に惚れるに違いない。」と言い出す懲りないトゥースマン。レオンハルトは「ばかげた望みはあきらめろ。とにかく当分アルベルティーネに会うな。さもなくば蛙になった方がまだ幸せだ。」と言う。

注: トゥースマンが大喜びする場面では自作の『喜劇序曲』を引用。

第3幕第2部

第16場

 夕方,再びフォスヴィンケルの部屋。肖像画はなくなっている。レオンハルトが入ってくるが,とても憂うつなフォスヴィンケルは出ていってくれという。レオンハルトはそれに構わず,エドムント,トゥスマン,ベンシュの誰を断っても災難であることを話す。

 まずエドムントは,例の肖像画を,白髪に皺,破れたポケットからは小銭や札が飛び出し,手には「倒産」と書かれた手紙を持っているというというひどいものに描き変えてしまい,肖像画はイェーガー大通りの銀行の前に飾られ,町全体に見られてしまうだろう。フォスヴィンケルは驚いて,エドムントに100デュカートやってやめるよう頼もうとするが,レオンハルトは「エドムントは叔母から80000ターラー相続したばかりだから興味がないだろう」という。それを聞いたフォスヴィンケルは心を変え,エドムントこそアルベルティーネと結婚すべきだと思う。

 しかしレオンハルトは,アルベルティーネに拒絶されたトゥースマンが蛙池に飛び込んで自殺しようとしたことを告げ,約束を破ったフォスヴィンケルは殺人罪に問われるかもしれないという。フォスヴィンケルは「やはりトゥースマンが結婚すべきだ」という。今度はレオンハルトはマナッセの呪いを思い出させる。もしベンシュを拒否すれば永遠に呪われるだろう。フォスヴィンケルは絶望する。

 そこでレオンハルトは一つの方法を提案する。3つの小箱を用意して,3人に選ばせる。正しい箱を選んだ者が花婿である。この「ヴェニスの商人」に倣ったアイディアを,フォスヴィンケルは喜んで承知する。レオンハルトは3人とも満足するようにしようと約束する。

第17場

 アルベルティーネが現れ,自分の夫がくじ引きで決められると聞いて卒倒する。

第18場

 レオンハルトが突然彼女の背後に立ち,自分のエドムントへの愛と,彼の未来を支配しているのが自分であることを告げる。アルベルティーネは夢うつつで「あなたは誰なのですか」と尋ねる。レオンハルトは「デューラーの時代の名高いスイスの金細工師レオンハルト・トゥルンホイザーは,嫉妬深い同業者たちに脅され,姿を消したといわれている。私がそのレオンハルトかもしれないね。」と答える。そして彼は将来のエドムントがイタリアの教会の祭壇画を描いている幻影を見せ,エドムントはアルベルティーネの元に戻り,彼女のものとなるだろう,という。爽やかな気分で目覚めるアルベルティーネ。

注: バレンボイム盤では第17,18場が第19場の後に移され,第19場以降を「第4幕」としている。


エピローグ

第19場

 次の朝,フォスヴィンケル邸。召し使いが,華々しく飾られた部屋に花を持ったトゥースマン,続いてマナッセとベンシュ,最後に旅の服装のエドムントの登場を告げる。エドムントは「報いのない愛のため,私はローマへ行く。」という。フォスヴィンケルが3つの箱を選ぶルールを説明する。

第20場

 3つの箱の置かれたテーブルの前には花嫁姿のアルベルティーネが坐っている。3人の候補者は彼女を称える。くじ引きで箱を選ぶ順番が決められる。さて,まず最初に選ぶのはトゥースマン。彼は「私を選ぶ者は望んだ以上を得るだろう。」と書かれ,アラビア文字とローマ文字の装飾のある箱を選ぶ。中にあったのは何も書かれていない本。絶望してまた蛙の池に飛び込もうというトゥースマンをレオンハルトが止める。これはポケットに入れて望みの本を念じればどんな本にでもなるという魔法の本だったのである。トゥースマンは大喜びで出ていってしまう。

 次はベンシュ。彼の選んだのは「私を選ぶ者はその者に応じた幸せを得る。」と書かれ,金貨の装飾のある箱であった。出てきたのは古い空の袋。がっかりしたベンシュはそれを結婚祝いとしてアルベルティーネに贈ろうとする。ところがそれを見たマナッセが叫ぶ。「その袋をよこせ! おれはそれのために300年前に魂を売ったのだ!」。これこそリッポルトが持っていた貨幣作りの魔法の袋だったのだ。「これは私のものだ」というベンシュとマナッセは互いを罵り合い,取っ組みあいつつ出ていってしまう。

注: 原作ではやすり,バレンボイム盤の解説では魔術の本となっている。

 最後はエドムント。彼は「私を選ぶ者は夢が現実となるだろう。」と書かれた箱を取る。エドムントとアルベルティーネは抱き合う。レオンハルトは「皆が幸せになった。」と言い,フォスヴィンケルは礼を言う。レオンハルトとエドムントはローマに向けて出発し,フォスヴィンケルとアルベルティーネは窓からハンカチを振って見送る。


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