邦訳のホフマン全集5-Iを借りてきましたので原作の梗概をまとめます。 原作にあってオペラにない部分は赤 で,大きく変わっている部分はオレンジ で示します。
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第1節 (p.46) 秋分の夜。市役所のあるシュパンダウ街の古い塔の前。かなりの年ながら独身の古書マニア,枢密官房書記官のトゥースマンが仕事を終えて家路を急いでいる。彼は毎日11時には家に帰り着いているのが習慣なのに,今日は遅れてしまったのであわてている。塔の前を通りがかったトゥースマンは,一人の男が塔の扉を叩いては窓を見上げているのに気づく。トゥースマンは怪しんで「その塔にはねずみやふくろう以外誰もいませんよ」と声をかける。見知らぬ男は「自分がここにいるのは一人の花嫁を見るためです。」と説明する。 11時の鐘が鳴り出すと幻影があらわれるが,それはなんとアルベルティーネの姿であった。11時の鐘の11番めが鳴り終わると幻影は消える。すっかり動揺し,混乱してしまうトゥースマン。トゥースマンは男に(トゥースマンは相手のことを「この身分で呼びかけておけばまずはまちがいないから」と「枢密顧問官どの」と呼ぶ)その女性の正体を尋ねる。 男は「今日,秋分の日の夜にこの塔の下の窓か扉をノックすると,次の春分までにはベルリンきっての幸福な花嫁になる女性が窓辺に現れるのだ。」と説明する。トゥースマンは突然歓喜と恍惚に魂を奪われたようになる。男は「では秋分の日の花嫁についてもっと話してあげましょう。」と誘う。酒場に行く習慣など全くないトゥースマンだが,無抵抗でついていく。 |
第2節(p.71) それより前の話。ベルリン,ティーアガルテン。エトムントが樹木を写生していると,レオンハルトが後ろから覗き込む。絵のことをあれこれ言うレオンハルトが自分の名前を知っていたことを不審に思い,尋ねるとレオンハルトは「私は君の父親と友人で,君が生まれた時からずいぶんかわいがってやった」と語る。エトムントに記憶がよみがえる。絵画や芸術についてレオンハルトが述べる卓抜な意見に感心したエトムントが「画家でもないのにどうしてそれほどの知識を持っているのですか」と尋ねるとレオンハルトは,1582年にベルリンに住んでおり,嫉妬深い同業者たちに脅され,姿を消したといわれているスイスの金細工師トゥルムのレオンハルト・トゥルンホイザーのことを話し,「自分がそのトゥルンホイザー自身であるような妄想にさえ取り付かれる」という。こうしてレオンハルトはエトムントにさまざまの助言や教訓を与える師匠のような存在になる。 |
第3節 (p.93) トゥースマンの描写。滑稽な外観と憎めない人物。ポケットにありったけ古い書物を詰め込んで暇さえあれば読んでいるという趣味。フォスヴィンケルとトゥースマンは修道院の学校時代の同窓生であった。娘をトゥースマンと結婚させるというのは,アルベルティーネが12歳の頃からフォスヴィンケルの抱いていた考えであった。事足りているトゥースマンなら持参金も少なくてすむし,いろいろわずらわしいこともないからである。アルベルティーネが18歳の時にこの話を打ち明けられたトゥースマンは驚くが,すぐにアルベルティーネに惚れてしまう。ところがこのような事情は一切アルベルティーネの知らないことであった。 さて,あの不思議な出来事のあった翌朝早く,フォスヴィンケルのところにトゥースマンが真っ青な顔で駆け込んできて,昨夜の経験,塔の窓に,見知らぬ男と踊るアルベルティーネを見たことをフォスヴィンケルに話す。ところがフォスヴィンケルは「慣れない酒など飲むから夢でも見たのだろう。」と取り合わない。トゥースマンは,ヌドの『睡眠の理論』やハフィティーズの『侯爵年代記』などという本を引用しながら,涙を流して反論するが,フォスヴィンケルは「それはレオンハルトとマネッセだろうが,彼らが魔術師のはずがない,政府がそんな免許は出さないという。さては君は娘との結婚をやめるために正気でないふりをしているのではないか」と疑う。我を忘れてアルベルティーネへの愛を誓うトゥースマン。 そこへけたたましいノックの音。入ってきたのはマナッセであった。びっくりして逃げようとするトゥースマンをフォスヴィンケルが引き止める。フォスヴィンケルはトゥースマンの言っていた事件のことをマナッセに話す。マナッセは「その事件とやらはわかりかねますが,この方は私が飲んでいる居酒屋に入ってきが,出ていくときはまともに立っていられないような状態でした」という。「ほらみたことか。わしの娘と結婚するなら大酒飲みはやめてほしいものだな。」と言うフォスヴィンケル。すっかりしょげ返るトゥースマンは追い出されてしまう。 一方マナッセはフォスヴィンケルに「自分の甥ベンヤミン・デュメルルがベルリンにやってきた。彼こそアルベルティーネの婿にふさわしい。彼はハンサムで若く,昨日から大金持になったオーストリアの男爵で,アルベルティーネに恋している。」と脅迫的にいう。ベンヤミンは鐘に汚く鼻持ちならない若者で,しかも「旧い信仰」の持ち主だった。さすがにベンシュ(ベンヤミン)とアルベルティーネの婚約を想像するとむかむかするので,マナッセが出ていくと,フォスヴィンケルはやはり昔なじみの同級生との約束は守ろうと思う。
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第5節 (p.130) ユダヤ民族の貧乏神ダレスの説明。フォスヴィンケルはマナッセの呪いを非常に恐れている。レオンハルトも怖いが,この2人にはどうもできないので,フォスヴィンケルはすべての怒りをエトムントに向けてしまい,「二度とわしの家の敷居を跨ぐな」という手紙を送る。エトムントは落胆し,レオンハルトに「あなたのやったことはぼくの行く手にとって障害物となっただけじゃないですか。ぼくはローマに逃げます。心臓に短剣を刺されたまま。」と言う。レオンハルトは「立派な芸術家になるには結婚などあきらめてイタリアで勉強する方がいい。」と突き放す。しかしエトムントが「アルベルティーネとの関係と芸術の研究がなぜ両立できないのかわからない。自分は最初からローマに行って一年ぐらい勉強してからわが婚約者のもとに戻ってくるつもりだったのに。」というとレオンハルトは驚いて「アルベルティーネが君のものになるならいますぐイタリアへ旅立つという約束はできるかね。」と尋ねる。「最初からそのつもりだった。」とエトムントが承諾すると,レオンハルトは喜んで「それなら私も約束しよう。数日のうちにアルベルティーネは君の花嫁だ。」と言う。 夜。ベルリン・ティーアガルテンの外れの木陰に寝転んで,トゥースマンが,アルベルティーネには嫌われるし,緑色はとれないし,もうこの池の蛙の緑色の卵が群らがる中へ飛び込んで死ぬしかないと自分の運命を嘆いている。「そうだ,もうおしまいだ。」とやにわに立ち上がり,池に向かって走り出す。トマーシウス他,大事にしていた本をポケットから池に投げ込み,いましも飛び込もうとした瞬間,レオンハルトが現れ,馬鹿な真似はやめろと抱き留める。レオンハルトが手を放すとトゥスマンは草むらにへたり込むが,池の底に沈んだと勘違いして,「冷たい死よ!緑の池よ!」と歌う。レオンハルトは取り合わず,「びしょぬれだから拭いてやろう」とハンカチで顔を拭いてやり,嫌がるトゥスマンを強引にホールに連れて行く。顔を隠そうとするトゥスマンを鏡の前に連れていくと,緑の色は消えていてトゥースマンはうれし泣き。また「これできっとアルベルティーネ嬢も私に惚れるに違いない。」と言い出す懲りないトゥースマンに,レオンハルトは「ばかげた望みはあきらめろ。とにかく日曜の正午まではアルベルティーネに会うな。」と言う。 |